企業経営におけるコンプライアンスへの取り組み方
~ビジネス・コミュニケーション・デザイン~

髙橋修平法律事務所
弁護士
髙橋 修平 先生

 

1. はじめに コンプライアンスに対する考え方

 「コンプライアンス」という概念は「法的適合性」などと直訳されますが、非常に広い概念です。企業活動とそのルールは多様化・複雑化し、人間が絡むことですので常に間違えることはありますので、コンプライアンス違反事案は、日常的に発生する可能性があります。医療機器業に関係するところでは薬機法や景表法等の法的規制や自主規制ルール違反、個人情報や営業秘密などの漏洩、種々のハラスメント、検査データ不正等々、様々な問題があります。

 他方、コンプライアンス対策というのは、頑張っても売上や利益が増えるとか、個人の評価とかボーナスに直結しないことが多いので、営業活動の足を引っ張る後ろ向きの活動と捉えられ、敬遠されてしまう傾向があります。

 しかし、これを見過ごしたり、対応を誤ってしまうと、最悪の場合には企業の倒産や、自死者を出してしまったり、非常に重大な事態にも発展しかねません。また、コンプライアンス事案の怖いところは、目に見えないところで進行します。気がついたときに適切に手を打たないと手遅れになったり、感覚が鈍って放置したりしているうちに組織全体の感覚が鈍り、組織が崩壊に向かっていることも気が付かないものです。
是非、世の中で発生したコンプライアンス事案は、自社でも発生する可能性があることと捉え、人ごとだと思わずに、真剣に取りくんでいただきたいと思います。

 そのためには、業界内でコンプライアンス違反事例が発生した場合に、それを自分の会社であればどうかと考え、事例や事実関係を可能な限り詳しく調査し、追体験する癖をつけると良いです。例えば、当業界でコンプライアンス違反事例があった場合には、医療機器業公正取引協議会や厚生労働省などから事案の概要が公表され、当事者において第三者委員会等を設置し、調査結果と再発防止策などを公表することがあります。また、調査報告書や再発防止策などは、その道のプロが、多額の費用と時間をかけて、作成するものですので、専門的で読みにくいかもしれませんが、経営上は、非常に参考になる情報がものすごく詰まっていますので、ぜひ読んでみてください。

 私が専門としている企業再建とか組織改革を必要とする現場では、企業内でコミュニケーション不全に陥り、多くの問題が顕在化しています。

 しかし、一見すると健全に見える企業でも、平時からあらゆるレベルのコミュニケーションをデザインし、円滑になるように実践することで、企業のあらゆる活動が改善し、収益も向上し、そこに関わるひとの活力向上につながり、結果として、コンプライアンス事案発生リスクを劇的に低減させることができます。

 このような考え方を持っていただければ、コンプライアンスに対する取り組み方も、もっと積極的にとらえてもらえるのではないかと思います。

2. コンプライアンス事案に共通すること コミュニケーション不全

 様々なコンプライアンス事案にはそれぞれ原因がありますが、共通することがあります。どの事案でも、【コミュニケーション不全】が一因しているということです。

 コンプライアンス事案に対する対応としても、コンプライアンスだけを切り口に考えてしまうと、確認すべき事項は極めて多岐にわたってしまい、どこから手を付けるべきか途方に暮れてしまいます。

 例えば、会議の進行や議事録の共有、課題の共有方法、組織図と職務分掌の状況、平時と非常時のリスク管理部門やリスク管理体制の仕組み、(IT環境・情報セキュリティの徹底的見直し、社内外のクレーム・意見等を受ける体制があるか、なにか問題が発生した場合のレポーティングラインと課題解決のための手順等々考えるだけでもうんざりしてしまいます。

 どのように取り組むかは、企業の状況等に応じてケースバイケースなのですが、ポイントは、そのような組織全体の具体的な問題点が見えていないときは、あまり各論や細かい部分に入りすぎないことです。

 

 まずは、再発防止策の策定や実施指導する過程で、あるべきコミュニケーションの姿を共に考え、デザインし、改善を行うということに注力します。

 

 また、会社内外のコミュニケーションを俯瞰して根本的に見直していただくことをお願いしています。会社従業員の情報共有や活力が向上し、また、社外に対して自社や自社製品の付加価値をいかに伝えるかということを、企業活動の最重要事項と位置づけていただくのです。これを私はコミュニケーション・デザインと名付けています。また、ここでいうコミュニケーションにおいては、相手方にどのように伝えるか、デザインをみれば直感的に伝わるということに着目する、デザイン・シンキングの手法などを織り交ぜながら考えていただきます。

 

 あわせて、意思決定と実行のための業務フローを適正化します。経営会議や幹部会議での議論の進め方を観察し、修正する。議事録をきちんと記録し、次回の会議では前回の確認から始める。また、社内コミュニケーションツールなどを確認し、適切な利用がされているか確認することから始めてみるのです。

 

 いままで何気なく行われているコミュニケーションを見直すことにより、社内のコミュニケーション環境が劇的に改善される結果、風通しの良い社内に変わり、活力が生まれ、業績にも好影響を与えることになります。また、相手のことを考えたり、不正を行っていたのではないかという意識が芽生えたり、違和感があったらすぐに共有・相談できるようになると、コンプライアンス事案が発生しにくい環境ができ、コンプライアンス意識が高くなる土壌が出来るのです。

 このような活動を愚直に継続していただくと、驚くほど業績や雰囲気が改善し、結果としてコンプライアンス事案のリスクも劇的に減少していると実感できるようになるものです。
キーワードは、Business Communication Designです。