公益社団法人 日本眼科医会 会長 白根 雅子 先生
子どもの目の機能は3歳ごろまでに急速に発達し、6歳から8歳ごろまでにほぼ完成します(図1)。
この時期に視力の発達を妨げる要因があると発達が停止し、一生涯視力不良の状態「弱視」となります。弱視はおよそ50人に一人といわれています。すべての3歳児は全国の自治体で3歳児健康診査(以下、3歳児健診)を受けることになっています。ここで弱視が早期発見できれば、治療により就学時までに正常な視力が獲得できますが、一次検査の視力検査が家庭で行われること、3歳児では検査時の応答が正確ではないこと等により、健診の受診率が高いにも関わらず多くの弱視が見逃されてきました。弱視には様々な原因がありますが、「強い遠視」「強い乱視」などの「屈折異常」が多くを占めます(図2)。
1991年、母子保健法の下で世界に先駆けて3歳児健診に視覚検査が導入され、全国の自治体で視力検査が始まりました。屈折検査を併用すれば弱視の発見率が向上することは報告されていました1)-3) が、検査時間の延長、専門検査員の不足、コストの課題に阻まれたままに時が流れました。
そのような中、2018年に成育基本法4)が成立し、既存の法律(母子保健法)の枠組みを超えて、3歳児健診の視覚検査に国の追加予算を要求できる道が開かれました。さらに、近年、簡便な屈折検査スクリーニング機器が登場したことが追い風となり、種々の障壁が取り除かれていきました。
日本眼科医会(以下、本会)では、2020年秋に超党派の議員で結成された成育基本法推進議員連盟総会にて屈折検査の必要性を説明し、全国の自治体で屈折検査機器を購入するための国の予算措置を求めて厚生労働省子ども家庭局母子保健課の指導のもとに手続きを進めました。そして、2021年6月に屈折検査導入に向けた要望書を厚生労働大臣に、合わせて予算措置に理解を求める団体要望書を財務大臣に提出いたしました。その結果、国会審議を経て三歳児健診において屈折検査機器を整備するための補助金が2022年度の国家予算に盛り込まれました。市町村からの補助金請求により、機器購入費用の50%が助成される、という内容です。
三歳児健診は市町村が実施主体となっています。すでに眼科医と行政が連携して屈折検査が実施されている市町村もありますが、その現状には大きな地域差があることがわかっています(図3)。国の将来を担う子どもたちが全国どこでも3歳児健診視覚検査の一環として屈折検査が受けられる仕組みの構築は急務ですが、まだ、屈折検査のことを知らない、あるいは理解が深まっていない自治体も多く、導入を促すために的確な啓発が求められます。
本会では,2020年度から「3歳児健康診査のあり方検討委員会」を設置し, 3歳児健診への屈折検査導入に向けて活用していただける『3歳児健診における視覚検査マニュアル』(図4)を作成しました。
マニュアル作成にあたっては、日本小児眼科学会,日本弱視斜視学会,日本視能訓練士協会の健診担当メンバーの方々が分担執筆してくださいました。健診に関わる小児科医、保健師,視能訓練士、眼科医など全ての方々に共通の指針を提示する内容となっています。一般の方々向けの三歳児健診の啓発動画「ストップ!弱視見逃し」も作成し、様々な機会をとらえて正確な視覚検査に向けた啓発活動を進めています(図5)。
屈折検査をスムーズに導入するためには、各地で健診を担当される小児科医と行政担当者の理解が不可欠であり、これには眼科医の連携とサポートも必要です。本会では、健診関係者を対象にした講習会用の資料を会員(眼科医)に提供したり、日本医師会、都道府県知事、全市町村に導入への支援などをお願いしています。
全国での導入が順調に進み、弱視の見逃しがなくなることが検証されれば、国の予算措置は続きます。今後数年をかけて、全国の市町村で順次検査機器が導入されていきますので、精度の高い国産の機器もリリースされることを期待しています。