新型コロナウイルス感染症への対応と影響ーそしてポストコロナへの期待

公益財団法人 日本眼科学会 理事長 寺﨑 浩子 先生

寺﨑 浩子

 

 医療関係者の皆様、行政、関係団体の皆様、新型コロナウイルス感染症が日本に到来して1年以上がたちました。その間、多くの方の命や健康な生活がなくなり、社会経済に大きな影響がもたらされました。禍中で苦しんでいらっしゃる方々には、心よりお見舞いを申し上げます。

 私自身、日本眼科学会理事長を拝命して1年もしない間にこのような事態に直面して、予定していたたくさんの事業の遅延を余儀なくされました。しかしながら、まずは、国民の健康を守ることが第一であり、新型コロナウイルス感染症の1日も早い収束と、感染防止に眼科としてどのようなことができるかを考えてまいりました。

 未曽有のこの感染症に対しては、日本眼科医会との協力体制のもと、新型コロナウイルス感染症についての関連リンクのほか、以下のような情報発信をいたしました。

国民の皆様へ

新型コロナウイルス感染症の目に関する情報について(国民の皆様へ)
新型コロナウイルス感染症の目に関する情報について(第2報)― 国民の皆様へ ―
新型コロナウイルス感染症と結膜炎について(国民の皆様へ)

会員・医療関係者の皆様へ

新型コロナウイルス感染症に対する正しい理解のために― 眼科医療関係者へ ―
新型コロナウイルス感染症流行時の眼科手術に対する考え方(第1報)― 眼科医療関係者へ ―
新型コロナウイルス感染症流行時の眼科手術に対する考え方(第2報)― 眼科医療関係者へ ―
新型コロナウイルス感染におけるヒドロキシクロロキン投与と眼科検査
緊急セミナー動画「新型コロナウイルス(COVID-19)」
新型コロナウイルス感染蔓延期における抗VEGF薬硝子体内注射
新型コロナウイルス感染におけるヒドロキシクロロキン投与と眼科検査(第2報)
新型コロナウイルス感染症流行時の眼科手術に対する考え方(第3報:手術時期の目安について) ― 眼科医療関係者へ ―
新型コロナウイルス感染症流行時における自動視野計のクリーニングに関するご案内― 眼科医療関係者へ ―
新型コロナウイルス感染症流行時の眼科手術に対する考え方(第4報:手術時期の目安について)― 眼科医療関係者へ ―

 眼科医療について、どのような影響があったかは、日本の眼科12月号を引用させていただきますと、診療所におきましては、緊急事態宣言期間中を含む昨年4月、5月の眼科、耳鼻科、小児科におきまして、レセプト件数の減少が明らかであり、4月の眼科においては前年、前々年の65%程度と、受診控えが明らかであります。【図1;西村知久 新型コロナウイルス感染症の眼科診療報酬への影響. 日本の眼科91:12号 1661-1665、2020】その中に手遅れになった方がいらっしゃらないことを願うばかりですが、半年以上たっても以前と同じベースには戻っていないことを考えますと、その間受診されなかった方はどうなったのでしょうかと心配になります。

 

新型コロナウイルス感染症による医療機関の患者数の変化④

図1

 急性網膜剥離の受診と結果を扱った海外での論文がいくつかあります。それらのうち一つの論文では、1年前の同時期の裂孔原性網膜剥離の受診時期と比較し、黄斑剥離がない症例は2019 では49.5%に対し、2020年では24.4%で、視力もより低い状態で受診し、発症後1日以内に受診した症例の割合も少ないという結果でした。増殖硝子体網膜症になっていた症例の割合も多いという結果もでました(1年前では4.5%に対し13.4%)。 多変量解析においては、50歳以下の方と3年以内に初診していて再診であった人では黄斑剥離が少なく、黄斑剥離が起こらずに受診できた要件であったということです。(Patel LG, et al. Clinical Presentation of Rhegmatogenous Retinal Detachment during the COVID-19 Pandemic: A Historical Cohort Study..Ophthalmology. 2020 Oct 13:S0161-6420(20)31006-X. )何らかの理由で定期的あるいは適当な時期に眼科を受診して眼科のホームドクターを作って置くことが、いろいろな急な事態の対応を早めるということになることも分かりました

 新型コロナウイルス感染症蔓延では、眼内レンズ手術にも影響を及ぼしていました。日本の眼内レンズ手術は、使用したレンズの枚数を見ると、2020年の4-6月では通常の時の8割以下となり、9月以降も通常年より減少が見られ、代償はできていません【図2】。

眼内レンズ売上枚数推移表(種別)

図2

 70歳以上の約2900名が参加した、Fujiwara-Kyo Eye Studyでは、視力0.7未満では、視力0.7 以上の人に比較し、認知症のリスクは2.4倍高いといわれており( Miyata K, et al. Cataract Surgery and Visual Acuity in Elderly Japanese: Results of Fujiwara-kyo Eye Study. Biores Open Access. 2017 Apr 1;6(1):28-34.)、白内障手術により軽度認知機能低下を2割程度は防ぐことができるとの結果が示されています(Miyata K, et al. Effect of cataract surgery on cognitive function in elderly: Results of Fujiwara-kyo Eye Study. PLoS One. 2018 Feb 20;13(2):e0192677)。長期に続く外出自粛の中で、鮮明な視覚情報を供与するメリットはとても大きいと考えます。医療のひっ迫により、急がない手術はあとになり、また緊急事態宣言による自粛のために再度の受診控えが起こっているのかは今の時点では定かではありませんが、遠くない将来の高齢者の健康的な生活能力のために、可能な限り無用な引きこもりのないように努めていきたいものであります。

 そのような中、オンライン診療の初診への拡大がコロナ禍において特別な条件で認められ、受診できない方がたの役に立っています。従来、オンライン診療はかかりつけ医等に対し、再診患者が投薬等を受けるためのものであり、実際の診療が必要であるときは来院するというのが条件です。コロナ禍においては、新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の 時限的・特例的な取扱いに関する留意事項等についての事務連絡に基づいて、ある一定の条件下で初診においても認められています。さらに規制改革会議や厚生労働省により、コロナ終息後も初診を含めたオンライン診療の拡大が考えられ議論されており、日本眼科学会においては、オンライン診療に関する検討WG  と、オンライン診療ガイドライン作成委員会を立ち上げ、また、日本医学会連合のオンライン診療に関する検討会議に2名の実務担当委員を配置して、オンライン診療の到来に備えつつある状態です。医師から医師へのしっかりした検査データを伴ったセカンドオピニオン的紹介は早期に実現される可能性がある一方、初診患者の通常時のオンライン診療にはまだまだハードルがたくさんあり、たとえ結膜下出血であっても眼科医ならではの気づきで、無症状の緑内障や、糖尿病網膜症を発見してきたことは誰にでも経験があると思います。オンライン診療のメリットを最大限に引き出しつつ、face-to-faceの診療の重要性をどのように確保していくのか、まだまだ見えないところはありますが、technologyの進歩とともに考えも変わってくる可能性がありますから、しくしくと準備は進めておくのがよいと思っています。

 さらに、コロナ禍で経験を積んだOn-lineでの情報交換や、学会のLive配信、On-demandなど、情報発信と意見交換はむしろ活発化している可能性もあります。また、海外学会への参加は、時間的・経済的負担なく可能になっています。もちろんこれもface-to-faceの情報交換が重要であることは確かですが、両者が相加的に機能すれば、私が重要な目標と挙げた日眼の国際化にも大いに寄与するものと思われます。ますます進むデジタルの世界を活用することは眼科にとって得意なことだと思いますので、眼科医療にかかわるものが協力し合ってよい形にしていきたいものです。