日本眼科学会AIプロジェクトの現状と今後

筑波大学医学医療系眼科教授
公益財団法人 日本眼科学会理事長
大鹿 哲郎 先生

 

はじめに

 現代社会のあらゆる分野にデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せていますが、医療ももちろん例外ではありません。しかし、DX白書2023(独立行政法人情報処理推進機構)によると、医療・福祉分野のDX化はまだ不十分で、他の産業より大きく遅れているとされます。カルテ・問診票・処方箋・物品購入手続きなど紙ベースのアナログ業務が多く残り、業務効率の改善を阻んでいるのです。

医療とAI

 医療のDX化は様々な形で進められていますが、その大きなエンジンとなるのが医療AIの活用です。医療現場では、診断、治療法・薬剤の選択などで多くの判断が求められるため、医療AIの導入によって、より正確な判断が下せるようになったり、人員不足による業務負担の軽減に役立ったりすることが期待されています。

日本眼科学会とAI

 日本眼科学会は、傘下に日本眼科AI学会と一般社団法人Japan Ocular Imaging Registry(JOI Registry)を設立し、AI・ビッグデータ関連のインフラ整備(基盤構築)を進めています。また、全国の施設から収集したデータを用いて、国立情報学研究所(NII)と共同し、AIを用いた診断補助アプリケーションの開発を進めています。

G-DATAとの連携

 ご存知の通り、眼科AIアプリケーションの社会実装に関しては、日本眼科学会+JOI Registryと、日本眼科医療機器協会(JOIA)およびその傘下の合同会社G-DATAとが緊密に連携しています。現在進行している主なプロジェクトは、網膜疾患AIと、角膜を主にした前眼部疾患AIです。
 網膜疾患診断補助AI(図1)については、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の指導のもと臨床性能試験が完了し、現在はサイバーセキュリティ対策を追加している段階です。6月には検診用の網膜疾患AIアプリケーションとして申請予定です。眼科診療で使用できるより高機能なAIアプリケーションは、その後に評価・申請を行っていくという流れになります。


 前眼部疾患診断補助AI(図2)は、PMDAとのSaMD総合相談、医療機器開発前相談、医療機器全般相談を経て、性能評価試験を近々開始する段階まで来ています。アプリケーションは既に出来上がっており、データも十分にありますので、前眼部疾患AI診断支援システム「CorneAI」として承認されて市場に出るまでのプロセスが、かなり明確に見えてきた段階です。


 前眼部疾患AIに関しては、次の段階としてスマートフォンによる入力(図3)、多機能オートレフによる入力、虹彩色素の異なる人種への応用などを検討しています。
 上記以外では、眼腫瘍の診断補助AI、手術安全向上AI、眼炎症性疾患診断補助AIなど、いくつかのプロジェクトが進行中です。

 

公的資金への応募

 様々なAI事業を進めるにあたり、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による公的資金への応募を積極的に行っています。これまでに、G-DATAを主体とした「医工連携イノベーション推進事業:AIを活用した眼科疾患支援システムの事業化」、筑波大学を主体とした「医療機器等研究成果展開事業:前眼部疾患AI診断支援システムに関する研究開発」で研究費を獲得しています。その他、G-DATAおよび多くの間連企業の御協力を得て、産学官共同型研究型研究に応募しています。これらは、今後、眼科AIプロジェクトを発展させるにあたり、非競争領域を整備して多くの方々の共通の利益に資することを目的としています。

おわりに

 日本眼科学会がAMED研究助成「臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業」を得て本格的にAI事業を開始したのが2017年です。それ以来、JOIAとは様々な形で連携し、開発、研究費申請、PMDA相談などを行ってきました。2024年は、これらの努力が具体的な成果として現れてくる年になりそうです。引き続き、御協力および御指導のほどよろしくお願いいたします。